ABC友の会の仲間たちは何歳だった?


 ABCの友の大部分は学生で、何人かの労働者と心から理解し合っていた。 ここに主な人たちの名前をあげよう。 この人たちは或る程度歴史上の人物になっている。 つまり、アンジョルラス、コンブフェール、ジャン・プルーヴェール、フイイ、クールフェラック、バオレル、レグルまたはレーグル、ジョリー、グランテールである。(三部四編一章/佐藤朔訳)


 彼ら、ABCの友の仲間たちは、実際何歳だったんでしょう。
 彼らの中には年齢の明記されている者が何人かいますが、問題は、それがどの時点での年齢かです。それぞれの紹介は第三部第四章の一「ABCの友」で語られますが、そこに書かれているのはいつの話なのでしょうか。
 ここではまず、話の中心となっているマリユスを基に考えてみることにします。
 引用は全て、新潮文庫(五巻組/佐藤朔訳)からになります。

 マリユスは1827年の時点で17歳(3巻p71参照)、そして祖父の家を出たのは、「ルイ十八世は四年前に死んでいたが〜」(3巻p98)のくだりから1828年、18歳の時だとわかります(ルイ十八世は1824年死去)。これはまた、後1832年6月4日に祖父の許へ結婚の許可を得るために戻った際のジルノルマン老の言葉「そして四年もたってわしの家にやって来たと思ったら〜」(4巻p309)からも同様で、ここから逆算しても、やはり家を出たのは28年となります。
 この時マリユスは21歳だとのことです(4巻p310「結婚する!二十一で!」)が、6月現在で21歳、誕生日はそれ以降と考えれば辻褄は合います。

 レ・ミゼラブルは基本的に、一本の時間軸に沿って語られます。脱線することはあっても違う時代のことではなく、その時別の場所で何が起きていたかやその時代の事情の話です。今のエピソードを語るために過去に遡ることはあっても、未来を先取りすることはまずありません(パトロン・ミネットの紹介は1830年から35年にかけて、と明記されています)。
 なので、マリユスが家を出たところでABCの紹介が入ったこと、またABCの友の章の中に「一八二八年にクールフェラックの話を聞けば〜」(3巻p110)と書かれていることから、この章はマリユスが家を出た年、1828年のことを書いていると判断します。

 3巻p104でアンジョルラスは22歳と明記されています。享年は26歳となります。
 同じように、p113でレーグルは「二十五歳で、禿げになった」と書かれています。この時点で25歳、享年29歳です。
 レーグルより二歳下のジョリーはp114にあるとおり23歳、享年は27歳です。

 クールフェラックには暴動当日、「そして二十五歳の暴徒と八十歳を過ぎた老人の間に〜」(4巻p373)という描写があります。この暴徒はクールフェラック、老人はマブーフです。これを25歳という決定的な数字として捉えるか、二十代半ばという意味で捉えるか微妙なところですが、ここ以外に判断材料がないので25歳としておきます。
 逆算して初登場時、マリユスと出会った時は21歳でした。

 グランテールに関しては彼の台詞に「この禿ちゃびんとおない年かと思うと情けなくなる」(4巻p393)というのがあります。これはレーグルのことを言っています。本当にぴったりおない年かとなるとまた断言できませんが、二歳の差を明記するユゴー御大のことなので額面どおりに受け取って問題ないでしょう。
 享年29歳、遡って28年時点では25歳となります。

 整理してみます。

1828年1832年
マリユス 18歳 21歳
アンジョルラス 22歳 26歳
レーグル 25歳 29歳
ジョリー 23歳 27歳
クールフェラック 21歳 25歳
グランテール 25歳 29歳


 こんな風になりました。

 残るメンバーのうち、バオレルの年齢を推理する材料になる描写は「バオレルは、一八二二年六月の流血騒ぎにも、ラルマン青年の葬式のときにも、姿を見せた」(3巻p111)「大学生活は十一年目だった」(同前)という二箇所だけであるように思えます(因みにラルマン青年の葬式は1820年/同頁訳注より)。
 残念ながら当時のフランスの学校制度がよくわからないので、少なくとも三十歳以上だということしか言えません。また何かわかったら、書き足したいと思います。

 コンブフェール、プルヴェール、フィイに関しては、どこにも何の手掛かりも見つかりませんでした。とはいえ、三人とも1828年時点でこういった集会の中心人物になっていたのですから、他のメンバーと同じくらい(二十代半ば〜それ以上?)ではあったと思います。

 と、このように一応の結論を出してみました。まだまだ読み落としや読みとり不足な点があるかと思います。ここに書いてあるよ!とか、それは違う!というのがありましたら、どうぞ指摘してやって下さい。