バースディ

Bertie's Birthday Present

Written by Tiamat's Child
Translated by Chicory






「よし、これで全部片付いたみたいだな、ジーヴズ。あとはあの猫だけで‥‥」

「何でございますか?」

「猫だよ、ジーヴズ、あの仔猫だ!あの動物がまだここにいるじゃないか。飼い主の若いレディが、この仔猫のことを思って今この瞬間にも悲嘆にくれているに違いないっていうのに。僕はおまえがうまくやることを期待してたんだぞ、わかってるのか」

「ご主人様、この仔猫には再会すべき飼い主の若いレディが存在しないものであるかと存じます」

「つまり、捨て猫だっていうのか? そんな!それなら話は別だ。見捨てられた仔猫をロンドンの街で路頭に迷わせるわけにはいかない。そんなことしたら、意地悪な鳥を喜ばせるだけだ。奴らはそこらを探しまわって年端の行かない仔猫を見つけては『もう一匹くらい何だ?』と考えるんだ。そんなことはこの僕が許さないぞ、ジーヴズ」

「おっしゃるとおりです」

「僕らでこの猫を飼おう。だめだめ、抗議は一言たりとも受けつけないぞ。こんなか弱い子を道に放り出すわけにいくもんか。一日と持たないだろうよ。僕はウースター家の家訓に則って、この子に安らぎの場所と滋養物を提供する。それに何とも元気なやんちゃ小僧じゃないか、気に入ったぞ」

「その動物は雌かと存じますが」

「じゃあ、やんちゃなお嬢ちゃんだ。うん、でも女の子にやんちゃというのはちょっとおかしくないか?」

「左様でございますね」

「まあ、そんなのはどうでもいいや!名前は何にしような、ジーヴズ? マデリーン・バセットが昔一匹飼ってたことがあって、いろいろ聞かせてくれたことがある。ふかぴんちゃんって名前だった。僕の猫には絶対ふかぴんちゃんなんてつけたりしないからな」

「論外でございます」

「無意味に残酷すぎる。子供にユスターシャって名前をつけるようなもんだ」

「お言葉のとおりです。僭越ながら、この猫にはどこかキャサリンと呼ぶに相応しい雰囲気があるように私には思えるのですが‥‥」

「全くもっておまえの言うとおりだ!キャサリンで決まりだ。僕はずっと猫を飼ってみたいと思ってたんだよな。 ‥‥なあジーヴズ? これって少し妙だと思わないか、僕らのフラットの前に純血種のペルシャ猫が捨てられてるなんて。それもちょうど僕の誕生日に」

「世の中には不可思議な出来事が多々あるものです」

「‥‥まあな、ジーヴズ、確かにそうなんだけどな。でも‥‥」

「何か?」

「‥‥いや、何でもない。おまえ、猫の事で文句言われないように大家に話つけといてくれ」

「かしこまりました、ご主人様」



End.





 訳者あとがき:

 二人の日常の縮図。とっても可愛いです!読んでいてほんわか幸せになりました。ご主人がこんなのだったら従僕も飽きないだろうなあ、ほんと。マデリーンの猫のエピソードがひそかにお気に入りです。
 作者のTiamat's Childさんはレミゼフィクも書かれています。短めの可愛いお話が多くて、そちらも超お薦めです。

 Thank you so much to Tiamat's Child for permitting me to translate this fic and use it on my site!
 Updated 15 February 06