泣き顔は見たくない





 革命を起こすんだ、と僕らは叫んだ。
 素敵ね、と、彼女は笑った。



(決戦前夜、バリケードの中、カフェ・コラントの一室。鏡の前に灯りを置いて、ジョリーが口を開けたり、瞼をひっくり返したりしている。時々外から暴徒たちがクールフェラックを中心に陽気に盛り上がっている声が聞こえてくる。
 突然ノックもなしにドアが開き、レーグルが入ってくる。彼は灯りに気づき、そこにジョリーの姿を認めて驚く。)

レーグル(以下L):ジョリー!こんなところで何してるんだ?
ジョリー(以下J):鏡を見てたんだ。なんだか舌がおかしいような気がして。脈も普段より速いような気がするんだけど、突発性心不全の可能性があると思う?
L:この期に及んで死に方を選ぶ気かい? 贅沢だね、君は!
J:(初めてレーグルを振り向いて)君は何をしにきたのさ?
L:なに、ステュクス河を渡る舟の進水式をしようと思ってね(ワインの瓶を掲げる)。
J:一人でかい? そりゃあんまり淋しいじゃないか。仕方ない、僕がつきあってやるよ。
L:やれやれ、みんなの目を盗んでやっと一瓶くすねてきたっていうのに。どこまでも運がないな、僕って奴は。
J:見つかったのがグランテールじゃなかっただけましだと思えよ。
L:いや、冗談さ。実を言うと君を探してたんだ。
J:本当に?
L:君と飲まなくてどうするのさ。このとおり、カップも二つ持参してるよ。ひとつ乾杯といこう。
J:乾杯? そうだね。何に乾杯しようか?
L:決まってる。僕らのミュジシェッタにさ。
J:うん。君が言わなきゃ、僕が言おうと思ってた。
L:(ワインの封を開けながら)だから君を探したんだ。
J:ねえ、実はさっきからずっと彼女のことを考えてたんだよ。彼女と、僕らのことをさ。
L:僕もだ。君が死んだら、あの娘がどれほど悲しむか。そう思うと胸が痛いよ。
J:それは君だって同じことだろ。ああ、ちゃんと別れを言っとくんだった。いや、言ったは言ったけど、革命なんてね‥‥よりによってこの僕らが!冗談としか思われてなかったような気がする。
L:あれは僕らの言い方が悪かったんだ。いつもの調子で話しちゃったから。‥‥ほんとにコンブフェールの言うとおりだ、僕らは利己的だよ。(ワインをカップにつぐ)かわいそうなシェッタ。そろそろ騒ぎを聞いて心配し始めてるかもな。
J:(カップを受け取る)もし二人とも無事に帰れたら、まっさきに彼女に会いに行かないとね。
L:そりゃいい!彼女きっと、また大笑いするだろうな。
J:人生最大のジョークになるよ。戦って死ぬって言ったのにけろっとして帰ってくるなんて。きっと一生からかわれるだろうね。

 (二人、力無く笑う。レーグルがカップを掲げ、ジョリーがそれに倣う。)

L:乾杯。僕らのミュジシェッタに。
J:我ら三人の思い出に。
L:彼女の未来に。
J:彼女のために祈ろう。僕らがいなくなっても、あまり悲しまずに済みますように。
L:すぐに次の男が見つかりますように。
J:おい、そりゃいくら何でも気が早すぎるよ。――幸せでありますように。

(二人はカップを交差させ、静かにかちあわせるが、どちらも黙ったまま口をつけられない。ランプの芯がじりじり燃える音が聞こえるほど静かになる。長い間カップの中を見つめたあと、ジョリーが呟く。)

J:もし、もしも、僕らのうち一人だけが生き残ったりしたらどうしよう?
L:そうだな‥‥君だったらどうする?
J:(しばらく考えて、首を横に振る)君が死んだことを彼女に伝えるなんてごめんだ。君がいない悲しみしか分かち合うものがないなんて、そんなのは嫌だ。何も言わずに遠くへ行って、もう二度と会わないよ。
L:(頷いて)僕もそのつもりだ。あの娘の泣き顔は見たくないからな。



End.





 note:

 ほんとならちゃんと文章にすべきなのですが。
 うちのレーグル×ジョリーはレーグル/シェッタ/ジョリーを基本に成り立ってます。二人ともシェッタ大好きで、それで同じくらいお互いが好きです。もちろんミュジシェッタも二人とも愛してます。