今はもう遠い朝

How Far We Are From Morning

Written by Manon
Translated by Chicory






 多分、君と初めて会った時から、僕にはわかっていたんだと思う。君が部屋に入ってきて自己紹介をした時の、薄くなりかけた髪にすりきれた上着という滑稽な出で立ち。けれど君のその笑顔。誰もが笑い返さずにはいられなかった。君がいると部屋が明るくなった。君は僕の向かいの席に座ると、僕の名前を尋ねた。笑顔のままで僕は答えた。「会えて嬉しいよ」と、本気でそう思っているかのように君は言った。その時、僕は君の瞳が僕のよりも青いことに気がついた。
 君は僕に調子はどうかと尋ね、僕がそれに答えると君は大笑いした。君はそれが、笑い飛ばしてくれることが、僕にとってどんなに嬉しいことか知っていたんだろうか? それとも、君がそう仕向けたんだろうか。人の悩みを和らげる、君のその才能をもって。
 君はいつも笑いどおしだった。笑いはまるで陽気な春のように君の中からあふれ出て、辺りに広がっていった。どんな悩みもまじめにはとってくれず、茶化してしまうことで僕の不安を追い払ってくれるのだった。 「君はどこも悪くなんかないよ、アレクサンドル、ばかばかしい!」 僕が励ましを必要としていることを直感で感じ取ってくれたかのように。
 一月も経たないうちに、僕は君を年来の友人のように感じるようになっていた。君の癖や、身振りや、口癖までも、まるで僕自身のものであるかのように当たり前のものになってしまった。間もなく僕は君の話し終わりがわかるようになり、君は僕の答えの予想がつくようになった。君に金を貸したり、切った指を手当てしてやったり、果てしなく災難に遭いつづける君を元気づけたりするのがいつのまにか当然のことになっていた。
 そしてある日、乱れた格好をした痛ましい様子の君と道で出合った時 ー「それがね、君、馬鹿なことやらかしてしまってね!」ー 僕は自然に、じゃあ僕のうちへ来いよと言っていた。
 僕はあれまで、あんなに満たされた気持ちになったことはなかった。あんなにいつまでも楽しみが続くことがあるなんて思ったことがなかった。何にも邪魔されることなく夜じゅう君と喋り通したり、狭いベッドの中で寄り添い合って、君の隣で眠りに落ちたり。もう、何も僕たちを引き裂くことはできないと思い始めるようになっていた。
 そして今、君は疲れ果て、僕の肩に頭を乗せて眠っている。もう夜中を過ぎた頃だろう。皆休むように言われていたが、眠ることができたのはほんの僅かの連中だけだった。アンジョルラスは見回りをしている。ポンメルシーはじっと考えごとをしている。コンブフェールは、まるでそれで彼らが助かるとでもいうかのように負傷者の間を忙しく飛び回っている。フィイは壁に文字を彫りつけようとしている。
 僕はというと、こうやってこれまでのことを思い出している。これから先、思い出すチャンスが僕にあるかどうかわからないから。
 友よ、今朝君を朝食に誘った時は、まさか今夜僕らがこんなところにいるとは思わなかった。じゃあ何を期待していたのかと言われても困るけど、でも、とにかくこんな風ではなかったんだ。
 ともあれ、雨は上がってしまったし、僕の風邪もまた治ったようだ。夜が明けきってしまう前に、僕も少し眠ることができるだろう。もう一度、君の隣で。少しの間だけでも。



End.





 訳者あとがき:

 ジョリーとボシュエ、初めてのシリアスです。ジョリーの思い出すエピソードの一つ一つに、ああボシュエってこんな奴だよね、彼ら実際にこんな風に過ごしてそうだよね‥‥と思いっきり頷きながら読みました。
 やっぱり彼ら二人が仲好しだと純粋に嬉しいです。バリケードで寄り添って眠ってる二人を想像して、切ないながらも幸せになってしまいました。
 そして作者さんに「これってスラッシュですか?」とお聞きしたところ「スラッシュということでもいいですよ :D」とお返事頂いて小躍りして喜んでおりました次第(笑)。
 題名がまた音感が良くてとても好きなんですが、うまく訳せなくて悩んだ挙げ句、やっぱりうまく訳せず‥‥結局ここで一番悩んで時間食ってたのですが。私のセンスではこれが精一杯です。

 Thank you so much to Manon for permitting me to translate this fic and use it on my site!
 Updated 6 September 04