サルでもわかるレ・ミゼラブル

Les Miserables for Dummies

Written by The Lark
Translated by Chicory






ジャン・ヴァルジャン:飢え苦しんでいる家族のために一切れのパンを盗んだだけで十九年も牢獄に入れられるってどういうことだ? やりすぎじゃないのか!まあ、とにかく、もう終わったことだ。これからは自分の人生を生きよう。

その辺の市民:いんや、悪いね。前科者は堕落した社会の屑だ。というわけで消えて失せろ。

ヴァルジャン:なんてこった。ああ、人間なんか最低だ!神も最低だ!人生は最低だ!

ミリエル司教:おお、そのように言うものではありませんよ。初めまして、私はミリエル司教。神のしもべにして多芸多才なる聖人です。お入りなさい、今夜はここにお泊まりになるといい。

ヴァルジャン:ありがとうございます!そしてどういたしまして。あいにく、おれは今人生に幻滅してるんだ。(銀器を盗む)

ミリエル司教:いいですよ。あなたがこれから神の道を行くというなら。

ヴァルジャン:本当に? そりゃどうも!うむ、どうやら、そう何もかもが最悪というわけじゃないようだな。これからは落ち着いて、市長になり、慈善をすることにしよう!さあ、モントルイユ・シュル・メールの皆さん、お金をどうぞ!(貧者の一団に金をばらまく)

フォーシュルバン:(馬車の下敷きになって)おおい、こっちにお金以外の慈善を少し頂けませんかね?

ヴァルジャン:勿論だとも!(馬車をどける)

ジャヴェール警部:おや、これは少し妙だな。こんなに強い男は他に一人しか聞いたことがない。あの行方をくらました囚人‥‥おお、おれは何を考えているんだ? 上司に対して悪い考えを抱くなんて!(壁にがんがん頭を打ち付ける)これも全てあの、法を重んじることを知らなかった出来損ないの家族のせいだ!

ヴァルジャン:ううむ、どうもあの警官は問題があるな。

その頃、どこかその近くで。

ファンティーヌ:(ミーハーな溜息をついて)愛してるわ、フェリックス・トロミエス。

トロミエス:あ、そうなの? 君はばかだね。僕みたいな思いやりのないろくでなしを好きになるなんて。 (ファンティーヌを見捨てる)さあて、悪いけど僕は実家に帰ってわが愛しの信託資金に着手しなくちゃ。

ファンティーヌ:でも、それじゃ私とこの子はどうなるの?

トロミエス:(肩をすくめて)僕の知ったことじゃないよ。

ファンティーヌ:(すすり泣いて)あんな不実な男だったなんて!コゼット、私たちが二人とも惨めな社会不適合者になってしまう前に、ママはあなたを意地悪な仮親のところに里子に出さないといけないわ。(テナルディエ夫妻にコゼットをあずける)仕事を見つけ次第、仕送りしますわ。

ヴァルジャン:うむ、今日のあなたはラッキーだ。私はたまたま仕事を右から左に流せる身分でね。

テナルディエ夫妻:いやっほぅ!金、金、金、金、金だ!もっと寄こせ!

ファンティーヌ:私、もう過労死寸前なんですけど。

テナルディエ夫妻:俺たちの知ったことじゃないね。

ファンティーヌ:ああ、隠し子に仕送りする充分なお金を稼ぐにはどうすればいいの?

ヴァルジャン:何に仕送りするって?

ファンティーヌ:あの、なんでもありません。

ヴァルジャン:堕落した社会の屑め!私の工場はお前のような輩のためのものじゃない!消えて失せろ!

ファンティーヌ:ああ、無情だわ。他にどうやってお金を手に入れられるかしら? うーん、手っ取り早く沢山稼ぐには、娼婦なんかよさそうね。

ジャヴェール:堕落した社会の屑め!牢獄行きだ!

ファンティーヌ:(溜息をついて)その上私は結核で死にかけてるのよ。ああ、人生は最低だわ!

ヴァルジャン:おお、気の毒に。どうやら私は彼女に冷たくしすぎたようだ。心配はいらない、ヴァルジャンがついている!私があなたを援助しよう。娘さんを連れてきて、一緒に暮らせるようにしてあげよう!

ファンティーヌ:やったぁ!

ジャヴェール:あなたは親切すぎますな、市長殿。ああ、話は変わりますが、警察は私があなただと勘違いしていた男を捕らえましたよ。

ヴァルジャン:何だと? ううむ、他の人を私の身代わりにさせるわけにはいかない。といって、私はこの町で沢山の良い行いをしてきた。私が牢獄に入ればこの町は修羅場と化すだろう。(たっぷり二章分悩み抜いたあとで)うむ、やはり真実を言った方が良さそうだ。

ジャヴェール:むわはははははは!わかっていたぞ!そうとも、おれが正しかったのだ!ははは!おれが正義だ!(ここで勝利の舞)

ファンティーヌ:何ですって? でも、もしこの人が刑務所に入ったら、誰が私のかわいそうなコゼットの面倒を見てくれるの?

ジャヴェール:誰もおるまいよ!むわはははは!

ファンティーヌ:いやあああああああああ!(死ぬ)

ヴァルジャン:(顔をしかめて)自分のしたことを見てみろ!さあ、私はここを出て彼女の子供を救いに行かねばならない。大人しく私をこのまま行かせるか、でなければおまえの頭を肩にめりこませてやるがどうだ?

ジャヴェール:は、できるものならやってみろ!

テナルディエ:らっしゃい、ようこそ、お金さん。

テナルディエ夫人:さあさあ!コゼットはどこだい? まだお昼のお仕置きは終わっちゃいないよ!

コゼット:(溜息をついて)人生って最低。

ヴァルジャン:心配はいらない、ヴァルジャンがついている!私が君の面倒を見るよ。さあ、お人形さんだ。

テナルディエ:おい、うちの奴隷っ子を連れては行かせねえぞ!

ヴァルジャン:これでどうかね?(金を出す)

テナルディエ:当面はよしとしようか。

ヴァルジャン:さてと、法の手を逃れるにはどこに行くべきかな?

フォーシュルバン:終生を祈りに捧ぐ者たちの住むこの修道院で、私のところにお住まいになるといい。あなたが私の命と人生を救ってくださった恩返しです。みんなには、私の弟だと言っておきますよ。

ヴァルジャン:完璧だ。これなら身を潜めている間、コゼットは宗教的な教育にどっぷり浸ることができる。大人になればこの修道院の一員になるだろう。

コゼット:(今や成長して)でもパパ、私修道女にはなりたくないわ。

ヴァルジャン:よろしい。そういうことなら、 更なる慈善をしに一緒にパリへ行こう。

同じ頃、パリにて。

ガヴローシュ:調子はどうだい? おいらの名はガヴローシュ!テナルディエが捨てた息子さ。おれのような子供は一人前で、おまえらみたいな大人は皆赤ん坊だ。なんか文句あるか?

ガヴローシュの生き別れの兄弟たち:助けて!困ってるんです!

ガヴローシュ:心配はいらねえ、ガヴローシュがついてるぜ!ちょっくらおれたちの親爺を刑務所から助けてくっから待ってろよ、ちび共。

兄弟たち:うん。かっこいい!

その頃、貧困地帯を離れて。

マリユス・ポンメルシー:やあ、僕はマリユス・ポンメルシー、ヴィクトル・ユゴーの自己投影キャラさ。まあでも、僕は可愛いから許されるよね。

ジルノルマン老:そしてわしが彼の祖父だ。わしはこいつのことを心の底から愛しとるが、いつも殴ったり怒鳴ったりして気づかれんようにしておる。

マリユス:いやな人だ。ああ、さっさと大人になってここを抜け出したいなあ!

ジルノルマン:おいで、マリユス。おまえの父親が死にかけていておまえに今すぐ会いたがっているそうだ。

マリユス:なぜです? あなたが僕を彼から不当に取り上げてから、僕は父に会ったことがないのに。

ジルノルマン:おい、わしはおまえのためを思ったのだぞ!奴のようなボナパルト主義の吸血鬼は親には向かんのだ!(長い長い演説がこの後に続く)

マリユス:(父親のドアを叩く)ハァイ、パパ、僕ですよー、あなたの生き別れの忘恩の息子です!開けてください!

エキストラの出演者:遅かったですよ、彼は死にました。

マリユス:そうなんですか? お気の毒に。じゃあ帰りますね?

エキストラの出演者:いやそう慌てないで。― 彼からの手紙です。なんと書いてあります?

マリユス:別に大したことは。単に、ナポレオンからもらった男爵の称号だか何だかを僕に譲りたいとか。それと、ワーテルローの戦いで命を助けてくれたテナルディエとかいう人を見つけて恩返ししろって。たわごとばっかりだ、帰ろうっと。あ、でもユゴーの小説の主人公であるためには信仰心がないといけないみたいだから、まず最初に教会に寄って行こう。

マブーフ:おお、私はあなたを知ってますよ!子供の頃、親戚の方にこの教会に連れて来られていたでしょう。あなたのお父さんは後ろで座って見ていることしかできなくて、いつも泣いておられたんですよ。

マリユス:本当ですか? じゃあ、彼はそんなろくでなしでもなかったってことかしら。なら、父が望んだように、今から僕はナポレオン盲信主義の革命派になります!

マブーフ:がんばれよ、少年。

マリユス:おじいさん、僕はナポレオン盲信主義の革命派になることに決めました。ブールボン家なんかぶっ倒れるがいい、ルイ十八世の大豚めも!

ジルノルマン:何だと? わしが骨折っておまえを父親から取り上げ、十七年のあいだこの杖でおまえを打ち据えてきてやった、その見返りがこれというわけか? わしの目の前から消えて失せろ!

マリユス:これで僕は一文無しの革命家ってわけだ。かっこいいじゃん!あとは狭っ苦しいぼろ家を見つけて住めば、イメージは完璧だな。

レーグル:僕が力になれると思うよ。

マリユス:君は誰?

レーグル:僕はレーグルという者で、理想主義と少しばかりの自殺願望にとりつかれた学生たちのクールな革命組織、ABC友の会のメンバーだ。

マリユス:へえ、面白そうだね。

レーグル:ああ。メンバーは九人いる。僕は運のない奴。

ジョリー:僕は病人。

フィイ:僕は貧乏人。

コンブフェール:僕は哲学者。

ジュアン:僕は詩人。

バオレル:僕は荒くれ。

クールフェラック:僕は色男。

グランテール:僕は飲んだくれ。

アンジョルラス:そして僕が光り輝くリーダーだ。

レーグル:クールフェラック、この革命家くんが寝泊まりする所を探してるんだそうだ。

クールフェラック:いいとも。ゴルボー屋敷を紹介してやろう。

マリユス:わお、なんてみすぼらしい家だろう。完璧だ!

クールフェラック:妙な奴だな。気に入った。友達になろうぜ。

マリユス:いいとも!

クールフェラック:他のみんなと一緒に会合に来るかい?

マリユス:いいとも!

アンジョルラス:静かに、静かに。ここにABC友の会の集会を執り行う。まず始めに、ルソーの石像の前に祈りを捧げよう。それが終わったら、来るべき戦死シーンに向けてヒロイックなポーズをきめる練習だ。

マリユス:おい、ナポレオンについて語り合わないか?

ABCの友:ボナパルトは最低。

マリユス:そんなことはない!ナポレオンは神だ!

コンブフェール:あのう、ちょっといいかな? 彼は頭のおかしい独裁者だったよ。共和制の方がずっと良かった。

マリユス:どうやら彼らの方が正しいみたいだ。僕以外の奴が正しいなんて気に入らない!革命なんてくそくらえだ。今日からは毎晩あのあばらやに閉じこもって生活のために本を訳して、時々隣人の暮らしを覗き見たりして過ごそう。さて、今夜は彼らは何をしてるかな?(壁の穴から隣を覗く)

テナルディエ(別名ジョンドレット):よう。他の奴らの話がゆっくり進んでる間に、おれは全く犯罪者に成り下がっちまった。こいつらはおれの友だちで、パトロン・ミネットという奴らだ。

クラクズー:おれは怪漢。

グールメール:おれは巨漢。

モンパルナス:おれは美男子。

バベ:おれは腹話術師。

ブリュジョン:といったところで、そろそろ本筋に戻ろうじゃねえか。

テナルディエ:じゃあ、本筋に戻ろう。なんてこった、おれは貧しい!

エポニーヌとアゼルマ:(惨めに溜息をついて)だね。

テナルディエ:おい、誰がしゃべっていいって言った?(二人の頭を殴りつける)さあ、今も言ったが、いったいどうやって家賃を払やいいってんだ?

マリユス:あわれな人たちだ!彼らの家賃を払ってやろう。主人公が表舞台に戻ってくる前に、この小説に少しくらいは博愛主義的なエピソードを盛り込んでおかなきゃね。

テナルディエ:おい、ガキども、隣の奴が家賃を払ってくれたとよ。エポニーヌ、おまえ行って搾れるだけ搾り取ってこい。

エポニーヌ:わかったよ、父ちゃん。(隣へ行く)わあお!なんて可愛いひとだろ! 愛してるううううう!(彼の足にまとわりつく)

マリユス:うわ、なんだこいつ ー ええい、離れろ!(彼女をひきはがす)やってらんないや、公園に行こう。

ヴァルジャン:(馬車で公園に着いて)あの学生についてのばかばかしい話が終わってくれたのはありがたい。これで我々は本筋に、重要なテーマに戻って来られるわけだ。つまり私のことだ。そうじゃないかね、娘や?

コゼット:なんでもあなたのおっしゃるとおりに、お父さん。

マリユス:(都合よくもたまたま通りかかって)わお、なんて可愛い子だろ!どうやら恋に落ちたみたいだ!

コゼット:同上

マリユス:(考える)そしたらどうしよう? 自己紹介するべきかもしれないな。いや、それは早すぎる。一年か二年の間彼女をつけ回すだけにしておこう。そしたらお互い、見つめ合って過ごせるからな。

コゼット:まあ、私のストーカーってばすっごく素敵だわ!

ヴァルジャン:(心の中で)あんな奴に大切な娘をとられてたまるものか。私は彼女を公正に買ったのだぞ!そうとも!(声に出して)コゼット、もう公園には来ないことにしよう。

マリユス:そんなあああああああああ!彼女を見ないと生きていけな、ええと、あの娘なんて名前だ?(肩をすくめて)まあ、本の表紙に書けるいい名前が思いつくまで、とりあえずユルシュールって呼んでおくことにするか。

コゼット:(溜息をついて)わかりましたわ、お父様。じゃあ私は、あなたが気づくまで裏庭の柵の後ろから通りがかりの兵隊さんにちょっかいを出すだけでがまんしますわ。

ヴァルジャン:それでこそ私の娘だ。来なさい、物語が進んでいる間にいくらか施しをしに出かけることにしよう。

コゼット:わかりましたわ。どこに向かってますの?

ヴァルジャン:ジョンドレットという貧しいひとたちのところだ。

マリユス:(いつものように壁の穴から覗き見をしていて)おい、ありゃユルシュールだ!

テナルディエ:(ヴァルジャンに)おれがわかるか?

ヴァルジャン:おおっと。(コゼットに)家に帰ってなさい、娘よ。

テナルディエ:(ヴァルジャンに)さあ金を寄こせ、でないとおまえの大事なひばりっ子をぶっ殺しちまうぞ!

ヴァルジャン:ひばり? ああ、コゼットね。よろしい、そう興奮するな、テナルディエ。

マリユス:テナルディエだって? おい、そりゃ僕の父さんの命を救った男の名前じゃないか。おやまあ。悩みの種が増えた。警察を呼ぼう。

ジャヴェール:話を聞こうか、誰がどうしたか? 事件の真相詳しく話せ!

ヴァルジャン:まったく、この筋書きのひねくれて皮肉なことといったら!(逃げる)

マリユス:おや、こりゃおかしいな。しかし今はユルシュールのことに戻ろう。それともひばりか、それとも何だか知らないけど。エポニーヌ、きみ彼女の家を知ってるんじゃないか?

エポニーヌ:ええ。でもあなたを彼女のとこに連れてったら、いつかあなたがあたしのとこにきて愛してくれるんじゃないかっていうあたしの淡い望みはすっかりぶち壊されちまうのよ。

マリユス:や、そんなのどうでもいいから。

エポニーヌ:プリュメ街54番地よ。ったく。

マリユス:やった!さて、今度こそ自己紹介すべきかな?(しばし考えて)いや、まだ一年しかストーカーしてないからな。簡単な手紙を残していくだけにしよう(メモ書きを置いていく)。

コゼット:(読んで)愛こそは、楽園の空気を吸う天国的な呼吸である。愛、それは星に対する天使の祝辞である。エトセトラエトセトラ。やん、超可愛いっ。あの素敵なストーカーさんが送ってくれたに違いないわ!

マリユス:そのとおりだよ、ベイビー!愛してる!

コゼット:同上!じゃあ、私たち結婚か何かできるのかしら?

マリユス:いや、それは少し早すぎると思わないかい、ダーリン? まだ僕らが知り合ってから一年しかたってないんだよ。しばらくは君ん家の裏庭で毎晩こっそり会って、手を握ったり笑い合ったりするだけにしよう。

コゼット:わかったわ!

テナルディエ:(六週間後)おい、おれはまだ復讐を終わってないぜ。パトロン・ミネットよ、あの家を襲ってやろうぜ!

エポニーヌ:させないよ!あんたらがあの娘を襲ったら、あたしの死ぬほど愛着してる男爵さんが巻き込まれてのされちまうじゃないか!

ヴァルジャン:あの音は何だ? おっと、あれはきっとあの執念深い警部に違いない。ふん、法から逃れようとしている者を甘くみてはいけないぞ。とるべき道はひとつ、この国を出ることだ!急いで用意しなさい、コゼット。

マリユスとコゼット:いやああああああああああああ!私のシュガープラムちゃんと離れたら生きていけない!

コゼット:どうすればいいの?

マリユス:僕たち、もう結婚してもいい頃だと思うんだ。ただ僕はまだ成年に達してない、ってことはつまり‥‥おじいさんに許可をもらわないといけないってことだ(息を呑む)

ジルノルマン:たわごとはよせ。

マリユス:ああ、なんてことだ!死にたい!

エポニーヌ:なんて偶然かしら。あなたのお友達が政府に対して勝てる見込みのない暴動を起こすつもりでいるわよ。

マリユス:そりゃおあつらえだ!(火薬樽を抱えてバリケードへ走る)

アンジョルラス:(大きな赤旗を振りながら)レーッド、熱き血潮!ブラーック、呪いの過去!レーッド、夜明けの色!ブラーック、夜の終ーーわーーりーーーー!

国民兵:お前達は孤立している!仲間はいない!降伏かさもなくば死だ!

マリユス:下がれ、さもないとバリケードを吹き飛ばすぞ!ごちゃごちゃ言うなよ、僕は死にたいんだから!

ABCの友:よくやった!行け、ボナパルト野郎!

マリユス:(下りてくる)へっへ。これで奴らも ー(つまづいて)わあ!エポニーヌ? そんなとこに寝転がって何してるんだ?

エポニーヌ:ああ、私あなたがあそこに上がって敵に向かって叫んでた時、あなたをかばって弾を受けたのよ。

マリユス:そうなのか? どうしてまた?

エポニーヌ:あのう、もしもし? あたしはあなたに死ぬほど恋い焦がれてんのよ。

マリユス:ほんとに? なるほどね。

エポニーヌ:そうよ。でもあなたにはもう彼女がいることだし、あたしはここで死んで終わりなんでしょうね。

マリユス:わかった。またすぐあの世で会えるよ。

ジャヴェール:(バリケードにて、敵をスパイしながら)一体おれはここで何をしてるんだ? フランスにはおれ一人しか警官がいないのか?

ガヴローシュ:ちょっと待ちな ー おまえ、知ってるぞ!おい、恐れ知らずのリーダーさんよ、こいつはスパイだぜ!

アンジョルラス:すばらしい!殺そう。

ジャヴェール:(深く溜息をついて)まあ、少なくともおれは体制を守って死ぬわけだ。

ヴァルジャン:ちょっと待った!気高き主人公の登場だ!ジャヴェール、君は自由だ。

ジャヴェール:おれを助けに来たというのか? 罪人であるおまえ、人類社会の表層に巣食う癌のようなおまえが?(頭を抱えて)容量オーバー!エラー!エラー!(ノートル・ダム橋から身を投げる)

ヴァルジャン:まあ、本当のところはあの学生を助けに来たんだがね。娘を悲しませたくないからな。今のはおまけみたいなものだよ。

アンジョルラス:マリユスを助けに来たですって? それはちょっと待っていただかなくちゃ。僕ら今、敵を撃つのと共和主義的なスローガンを叫ぶのとで忙しいんです。

ABCの友:人民万歳!未来万歳!フランス万歳!

ガヴローシュ:ちび犬でも戦えるぞ!つかまえろ、食いついてやるぞ!

グランテール:(いつものように飲んだくれて)そんなにうるさくするなよ。僕はここで寝ようとしてるんだぞ!

アンジョルラス:黙れ、この役立たずの酒樽め。僕は今最後の英雄的な独白をしようとしてるところなんだ!

国民兵1:(銃を構えて)あばよ、薄汚ねえ共和派ども。

国民兵2:(溜息をついて)こんなにきれいな子を殺すなんてもったいないけどな。

アンジョルラス:(優雅にポーズを決めて)さらば、祖国よ。

グランテール:おい、僕の最愛のアイドルを殺すつもりなら、僕も殺してくれよ。(ふとひっかかるものを感じて)あの、言っとくが、僕はゲイでもなんでもないからな。

アンジョルラス:おい、きみはそれほど役立たずでも馬鹿でもなかったのかもしれないな。これまで怒りにまかせて当たり散らしてきてすまなかった。

国民兵:(銃を撃つ)ハハハ!これで全部片づいた!

ヴァルジャン:全部ではないぞ!(逃げていて、人事不省のマリユスにつまづく)あ、そうそう、この青年ね。ま、今夜の私は心が広いからな、このやんちゃ坊主も見捨てたりはせんよ。(と、下水道の中を引きずってゆく)

ヴィクトル・ユゴー:(忌むべきパリの下水道についてのドキュメンタリー)

ジルノルマン:わしの恩知らずの孫が負傷しただと? あああ、哀れなちびの悪魔め!(マリユスを抱いて、人目も憚らず泣き崩れる)

マリユス:何です? ここはどこです? ちくしょう、死んだつもりだったのに!

ヴァルジャン:ここは君のうちだ。そしてもう一ついいニュースがある。いかなる理由によってか気持ちを変えた我々は、君たち幸せな子供二人を結婚させることに決めたのだ!

マリユスとコゼット:やったぁ!私のシュガープラムちゃんと結婚できるんだ!

ヴァルジャン:さて、これで娘は大丈夫だ。私は彼らの前から姿を消し、人目につかないところで死ぬことにしよう。

マリユス:お帰りの際は閉じるドアにご注意くださいね。

テナルディエ:あの野郎があんたの命を救ったんだぜ。

マリユス:えっ、本当に?

テナルディエ:さあ金を寄こせ。金、金、金、金、金だ!

マリユス:僕はまたなんて物が見えてなかったんだ。コゼット、きみのパパに会いに行こう!

コゼット:やったぁ!

ヴァルジャン:もう遅いよ ー 私は死ぬところだ。(死ぬ)

マリユスとコゼット:いやあああああああああ!



End.





 訳者あとがき:

 実はもちろん原作を読んでいないとわかりにくいパロディですが、基本的に何も間違っていないあたりがすごいです。そしてテンポの良さと一部のキャラの壊れ具合が素敵すぎ。マリユスの変貌っぷりは顕著ですが、さりげにアンジョルラスが大変なことに。
 原作の台詞が引用されているところは岩波版(豊島与志雄訳)の訳に置き換え、ミュージカルの台詞も一部を除いては東宝の歌詞にそのまま置き換えました。

 Thank you so much to The Lark for permitting me to translate this fic and use it on my site!
 Updated 25 November 05