干渉継続中





 プロッサー氏は、イギリスの片田舎に建ついかにもぱっとしない家を眺め、そのとおりの感想を口にした。
 ナイトガウン姿でぬかるんだ地面に寝転びブルドーザーの接近を阻まんとするその家の持ち主は、プロッサー氏にとっては遺憾なことであると察するが彼自身は気に入ってそこに住まっている旨をかみつくような口調で答えた。
 プロッサー氏は空を流れゆく雲にぼんやりと目をやり、きびすを返してゆっくり歩き始めた。
 「何もない」という形容が一番しっくりくる田舎町を見渡し、頭の中はほぼ空っぽで、プロッサー氏はのろのろと両足を動かし続けた。あの男はどうあっても動く気はないらしい。どうして自分がこんな苦労をしなくてはならないのだろう。バイパスを通すのだ、その計画はもう始まっているのだ。あの男はもうとっくにあの家を明け渡して、どこかへ行っていなくてはならないはずなのに。何の因果で、今になって自分がその説得にあたらなくてはならないのだ。こんなのは自分の仕事ではないはずなのに。考えとも言えない思いの切れっ端ばかりが浮かんでは霧散していく。


 あの男がいなければいいのに。
 誰かがあの男をあそこから連れ出してくれればいいのに。


 全ての思考がその願いに凝縮された瞬間、行く手に何かが立ちはだかったのを感じてプロッサー氏はつんのめるようにして足を止め、はっと目を上げた。
 何かが、目の前の空間にぷかぷかと浮かんでいる。
 その黒っぽいものは、鳥のような形をしていた。
 プロッサー氏は背中に汗がどっと噴き出すのを感じた。
「何か望みがあるのですか?」
 目の前で空中をゆったり上下する鳥状のものは穏やかに声を発した。
「ご心配なく」
 おそろしさに硬直したままのプロッサー氏の返事を待たずに、それは言葉を継いだ。
「もう、既に起こっています」



End.





 note:

 なぜフォードはアーサーを地球から連れ出したのかと延々自問してたらこんなアイデアが出てきました。
 この干渉によって新型ガイドが何をしたいのかまでは考えてませんが。

 2012.7.24.