雨の日に





「起きろ、グランテール」
「‥‥‥」
「さあ、起きるんだ。ルイゾンが店が閉められないから出て行ってほしいと言ってる」
「何事だ」
「閉店の時間だ」
「ああアンジョルラス。元気か」
「寝呆けるな。外に出れば酔いも醒めるだろう。さあ起きろ」
「アンジョルラス、君が死ぬ夢を見た」
「‥‥‥」
「君だけじゃない、皆がだ」
「外へ出よう、グランテール。皆もう帰った」
「ラマルクが死んだんだ。それでバリケードがつくられて、皆立てこもった‥‥僕は寝ていた。寝ているのに周りのことはわかるんだ。ちょうど意識だけが周囲を見ているんだ。やがて銃撃戦が始まり、兵士がバリケードに上ってきた。皆応戦した」
「グランテール、君はよっぽど酔っているんだ」
「バオレルは市警を一人殺したが、すぐに違うのにやられた。プルヴェールは銃殺だ、捕虜になってすぐだ。クールフェラックは若い兵士と相打ちになっていた。折り重なって死んでいたよ。コンブフェールが倒れる瞬間を僕は見た。負傷した男を助け起こそうとした時、三本の銃剣に貫かれて、あ、と声をあげたらもう息絶えていた。ジョリー、フィイ、マリユス、ボシュエ、皆血を流して倒れていた。ガブローシュ、あいつは死んだ兵士から弾丸をいただこうと外へ出て撃たれた。死体は連れ戻されたが、誰だか知らん、老人が死んで隣に寝かされていたよ」
「‥‥‥」
「君は一番最後まで持ちこたえていた。僕が寝ている店の二階に上ってきて、階段をたたき落とし、上から兵士を攻撃していたが、遂には壁まで追いつめられた」
「‥‥‥」
「僕は起きようと思った。君は銃を突きつけられて、それでも毅然としていた。将校と問答をしているようだった。僕は起きようと思った。しかし身体がどうしても動かなかった。動こうと、起きようと随分苦労して焦っているのに、金縛りにでもあったように全く動かないんだ」
「もういい、行こう、グランテール」
「君は銃殺された‥‥僕はその途端に椅子から飛び上がった。僕は一番側にいた国民兵にとびついて、殺してくれと頼んだ。なのに彼は僕に気がつかないんだ。僕は手当たり次第にそいつらにすがりついた。だが彼らは、もう用は済んだとばかりにそこから出ていこうとするんだ。誰も僕を見ようとしないんだ。僕はずっと叫んでいたんだ、君がさっき起こすまで、殺せ、殺せ、頼む、僕を殺せ、殺せ‥‥」
「ただの夢だ」
「僕だけ生き残ってしまったんだ。こんなひどいことってあるか」
「くだらない夢だ。泣くことはない」
「そうなったら僕はどうすればいい? 仲間なしで、君なしで、僕が生きていかれるもんか。なあアンジョルラス、君が死ぬ時は僕が死ぬ時だ。どうかその時だけは僕を見捨てないでくれたまえ‥‥僕が、君が死ぬ前に何かで死んだとして、その時はいい、君は僕がいなくたって何も変わりはしないだろう。でも僕は君なしではおれないんだ。どうかわかってほしい」
「ルイゾンが困っている。出るぞグランテール、さあ立て。君はあんまり呑みすぎだ。いい加減にその酒を置きたまえ。全く、そんなに呑みさえしなきゃ君だって少しはまともにものを考えられる男のはずなのに」
「僕を嫌わないでくれよ君頼むから、好かないまでも」
「嫌ってはいないさ、ただ酔っ払いは軽蔑するよ。行こう、送っていってやる。今の君じゃ隣までたどりつけるかどうかも怪しい」
「愛してるよ、アンジョルラス」
「言ってろ」
「本当だ、本気だよ。君は真面目に聞いてくれたためしがないが」
「‥‥‥」
「‥‥なあ?」
「‥‥知ってるさ」
「えっ?」
「ラマルクはもう長くないだろう。明日明後日あたり一雨きそうだ。パリ中に雨が降る。もしかしたら結果は君の夢のとおりかもしれないが、誰も止めることはできない。夜風にあたって少しは酔いが醒めたか? なら僕は帰るよ。おやすみ。雨の日にまた会おう」



End.





 note:

 これも高校の時に書きました。初読時、グランテールの最期に感動して勢いで書いたものです(今は少し解釈が変わってますが‥)。アンジョルラスがちょっと優しすぎですね、はい。
 グランテールの夢の中で、クールフェラックだけ嘘です。作ってます。昔はいっぱい設定作ってたなあ。