再度警告:ネタバレを含みますので、原作未読の方は読まれないようお願いします。































背中合わせの鏡像





 彼は知らない。
 彼、アンジョルラスは何も知らない。自分がグランテールに何をしたのか。
 アンジョルラスは自分の信じるままに生きただけだった。彼の進む道は常にまっすぐで、ただ前だけが見えていればいいと思っていた。道のあちこちに暗い疑いの影を伴って現れるグランテールの姿は、彼にとってはただ疎ましいだけだった。愛してると言われても、グランテールの他の言葉を信じないのと同様に彼は信じなかった。最も優しく寛大な気分の時でも、勝手にすればいいというぐらいにしか思わなかった。グランテールがついて来ようが来まいが、彼にはほとんどどうでも良かった。
 アンジョルラスは気づいていない。自分がグランテールの人生をどれほど明るくしたか。自分に生きる価値も死ぬ価値も見いだせなかったグランテールが、信じられるものを見つけられたことに、その側で日々を過ごせることにどんなに喜びを感じていたか。彼にとって、この世で一番愛した友に微笑んでもらえたことが、自分も仲間と呼べる何かになれたのだと思いながらその隣で死ねたことが、どんなに嬉しかったか。
 アンジョルラスは知らない。グランテールが、それでどんなに幸せだったか。


 彼は知らない。
 彼、グランテールは何も知らない。自分がアンジョルラスに何をしたのか。
 グランテールは自分の思うままに行動しただけだった。どこへというあてもなくさまよっている時、ふと見えた光の方へ引き寄せられていっただけだった。自分が持ち得ない、揺るぎない信念を持つアンジョルラスの姿は、彼の目には言葉通り輝いて見えた。どんなに憂鬱で、世界中全てが虚しく感じられる時でも、アンジョルラスだけはまだ確かなものに思えた。嫌われようが拒絶されようが、グランテールは構わなかった。彼はアンジョルラスを慕う一心で砦に居残った。
 グランテールは気づいていない。自分がどれだけアンジョルラスの役に立ったか。アンジョルラスにとって、最期の時に彼が側にいてくれたことがどんなに有り難かったか。自分のせいで大切な友人達の命が失われ、戦いに敗れ、理想が終えた時ーー彼が最早崇拝される理由を失い、敗北のうちに人生を終えようとしていた時、それでも君は正しいことをしたのだと無条件に言ってくれる者がいたことがどんなに嬉しかったか。
 グランテールは知らない。アンジョルラスが、それでどんなに救われたか。



End.





 note:

 こういう解釈はどうでしょうか。あの最期はグランテールにとっては救いだと思ってましたが、アンジョルラスにとってはどうだったのかな‥‥と考えた結果こうなりました。相互救済だと嬉しいです。

 2004.11.5.