「肺炎だ!」と叫んだ少年の話

The Boy Who Cried "Pneumonia!"

Written by Jenelin
Translated by Chicory






 昔々、パリの街に、ジョリーという名前の若い学生が暮らしていました。ジョリーはとても陽気な少年でしたが、少しばかり気で病むたちでもありました。彼は毎日、カフェで友達に自分の病気のことを話しました。
「コレラにかかったんだ!」と、彼は叫ぶのでした。
 友人達はきまって、信じられないというように頭を振り天を仰ぎました。最初の頃はみんなもジョリーの言うことを信じたのですが、時がたつにつれ、誰も面と向かっては言いませんでしたが、ジョリーが大ぼら吹きだということがわかってきたのです。けれどジョリーは本当に憎めない子でしたから、今では彼が「インフルエンザだ!」とか「僕の舌、おかしな色してない?」とか叫びながらカフェにとびこんで来た時は、みんなは彼をからかうだけになりました。
 しかし学生達はある日、ジョリーの病気につきあわされるのはもう沢山だと考えました。彼らはジョリーには内緒で、この問題を話し合うために集会を開きました。
 まず、アンジョルラスが話し始めました。
「知ってのとおり、今日集まったのはジョリーの問題を解決するためだ」
「彼は大した奴だよ」と、フィイが言いました。「でも次に彼が騒ぎ出した時は、僕らはもう無視しなくちゃ」
「完全無視かい?」ボシュエが訊きます。「まず、僕らがどう思っているかを彼に伝えるべきだと思うな」
「奴は大ぼら吹きだ」バオレルが言いました。
「そんな率直すぎる言い方は賢明ではないだろう」と、アンジョルラスが注意しました。「僕らは彼に自分の問題に気づいてもらいたいだけだ。敵を作ろうというんじゃない」
「次に彼が今週の最新病気情報を始めたら、いつもみたいにからかうのはやめよう」クールフェラックがみんなに向かって言いました。「ただこう言うんだ、『ジョリー、君が病気だとは信じられない、君は病気じゃないよ、だからもう僕らにそのことを訴えるのはやめてくれ』って。それでいいかい?」
「賛成!」みんなは一斉に叫びました。





 ジョリーは頭がずきずき痛むので目が覚めました。
「どうしたんだろう?」彼は自問しました。「いつもより気分が悪い」
 ジョリーはゆっくりとベッドを下りると、冷たい床を歩いて壁にかかった古い鏡のところへ行きました。彼は鏡に顔を映してみて、青ざめていると思いました。舌も、明らかにおかしな感じがしました。
 彼は服を着替えて様子を見てみることにしました。でも、一番お気に入りの黄色の上着を着てみても、ひどい気分は治りませんでした。
「すごく暑いや。きっと熱があるんだ」
 何度も鏡で舌を調べ直してみたあとで、彼はカフェに行って肺炎にかかったことをみんなに知らせることに決めました。





 ジョリーがカフェ・ミュザンの扉を開けると、友人達は全員そこに揃っていました。フィイはポーランドについての長い演説の真最中でした。アンジョルラスは壁にかかった共和制下のフランスの地図を検討していました。部屋の一隅ではグランテールがボシュエと一緒に飲んでいました。他の学生達も、それぞれが活発に動き回っていました。
「ジョルルルリー!」グランテールが部屋の隅から声をあげました。「こっちに来て一緒に飲めよ!」
「今日は無理なんだ」ジョリーは答えました。「少し気分が悪くて」
「どうしたんだい?」ボシュエが尋ねました。
「肺炎なんだ!」と、ジョリーは叫びました。
 今こそ、ことを起こす時でした。
「あー‥‥ジョリー、話が‥‥あるんだが‥‥」クールフェラックがぎこちなく言い出しました。
「僕が言うよ」ジャン・プルヴェールが言いました。「僕ら思うんだけどね、君は‥‥フィイ、君頼む」
「わかった。なあジョリー、それは信じられな‥‥いや、つまり‥‥」
 明らかに、これは彼らが最初に考えていたような簡単なことではありませんでした。
「何なんだい?」咳の発作におそわれながら、ジョリーは戸惑って聞き返しました。
 バオレルがこのチャンスを見てとりました。
「ジョリー、君は大ぼら吹きだ!」
 アンジョルラスが、射殺さんばかりの勢いでバオレルを睨みつけました。
 ジョリーはひどく傷ついて、また気分も悪かったので、すぐさま家にとって返し、そのまま肺炎で二週間寝込んでしまいました。
 ジョリーが、少なくとも今回ばかりは本当に病気だったと知った時、飲むのに忙しすぎて気がつかなかったグランテールと留守にしていたコンブフェールとを除くみんなは申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。


 この肺炎事件の後もジョリーは気で病むのをやめませんでしたし、みんなもいつも彼の言うことを信じるようになったわけではありません。ですが、お互いにとって一見対照的なこの出来事のおかげで、ジョリーは自分が時々少しばかり大げさすぎたことを反省しましたし、みんなには、ジョリーが思っていたほどの大ぼら吹きではなかったということがわかったのです。
 そして今、このお話をお馴染みの「昔々」という書き出しで始めた以上、同じようにお馴染みのフレーズで終わらせるべきでしょう。「そしてみんなはいつまでも幸せにくらしました!」と。


 おしまい!





 訳者あとがき:

 個人的に、レミゼフィクで読んでていちばん楽しいのは、なんといってもABC全員が出てくるユーモア小説です。元が全員個性的なので、それがどう生かされてるか(もしくは、どこまでぶち壊されてるか)がいつも楽しみで、そういうのを見つけるとわくわくしながら読んでます。
 この話はジョリーがメインですが、他のみんなが真剣に気を使ってミーティングなんか開いちゃったりしてるのが可愛くて愉しかったです。 特にアンジョルラスがいいキャラしてると思います。

 Thank you so much to Jenelin for permitting me to translate this fic and use it on my site!
 Updated 11 July 04