電 報

Telegrams

Written by Katherine F.
Translated by Chicory







19--年 7月17日 午後12時30分(返信料先払い済)

ジーヴズ 至急帰ラレタシ オ前ノ代理ハ暴君ダ くっしょんヲヘコマスト怒ルカラ オチオチ座ルコトモデキナイ ウースター



19--年 7月17日 午後3時13分

ゴ希望ニ沿イカネルコトヲオ詫ビ致シマス 個人的ナ事情ガ許シマセン 別ノ者ヲ手配シマス ジーヴズ



19--年 7月18日 午前9時15分(返信料先払い済)

馬鹿ヲ言ウナ 僕ガ許スカラ帰ッテコイ デナイト僕ノ気ガ狂ッテシマウ 暴君ハ8:30マデシカ朝食ヲ出サナイノデ 僕ハトンデモナイ早起キヲ強イラレテル ウースター



19--年 7月18日 午後12時15分

代理ノコトハ申シ訳アリマセンガ 残念ナガラ戻レマセン ジーヴズ



19--年 7月19日

 ジーヴズ、

 一体何をごちゃごちゃ言ってるんだ? 個人的な事情? 希望に添えない? 戻れない? お前は一週間の休暇をとってブライトンに行ったんじゃなかったのか。だが、僕がお前にいつものように温かい別れを告げてからもう三週間、あれ以来お前の姿を文字通り影も形も見てないんだぞ。僕が何か悪いことでも言ったのか? 代理の従僕の事を持ち出して話をごまかそうとするなよ、お前はそういう奴だ。前にお前が僕に引用してみせた格言があるだろ。正確には思い出せないが、陶工だか大工だかに関するやつだ。とにかく、イギリス中どこを捜したってお前のような才能のある従僕はいないんだ、ジーヴズ。お前がいなくなってから僕は全く途方に暮れてしまっている。だから帰ってこい。

 敬具

 B.W.ウースター



19--年 7月20日

 謹答

 愚生の才能を高くご評価いただけましたことは光栄に存じますが、そのお言葉はいささか誇張が過ぎるものと思われます。旦那様に相応しからぬ従僕を雇い入れてしまいましたことをお詫び致します。より融通の利く性質の知己がジュニア・ガニメデクラブにおりますので、連絡のつくよう尽力致したく存じます。
 詳細をお話ししてお心を煩わせかねます個人的な事情により、旦那様の許に戻ることは適いません。

 謹言

 レジナルド・ジーヴズ



19--年 7月21日

 ジーヴズ、

 ああもう、なんて冷たい奴なんだ。こういう言い方が許されるなら、冷酷と言ってもいいぐらいだ。僕はお前がいなけりゃだめなんだって言ってるんだぞ。それなのに、十時以降にも朝食を出してくれる従僕を与えておけば万事安泰だなんて、どこをどうすれば思えるんだ? それから、お前がその個人的な事情とやらをはっきり言わないのも気に食わん。僕にはその事情とやらが何なのかは全く見当がつかないが、お前が教えてくれるか帰ってくるかするまで延々手紙を書いて悩まし続けてやるからな。そりゃ、もしも僕がお前だったら何かあっと驚くような策略をめぐらして自分で探り当てもするんだろうが、僕は僕なんだから仕方ない。お前が折れるまで、何度も何度も訊き続けるしかないじゃないか。

 お前の名前がレジナルドだとは知らなかった。なんだかしっくりこないな。

 敬具

 B.W.ウースター



19--年 7月22日

 謹答

 旦那様は似合わないとお考えになるかもしれませんが、それが愚生の名前でございます。ご用命にお応えできない事情がございますので、今後、お手紙は控えさせて頂きます。これ以上のお返事は不要でございます。

 謹言

 レジナルド・ジーヴズ



19--年 7月22日

 ジーヴズ、

 お前のつれない言い草に僕は深く傷ついたぞ。ばかばかしい、全く下らん!いいから、お前のその卓越した手腕でもってその個人的な事情を解決して、荷物をまとめて帰ってこい!
 あの暴君は去って(お前が言ってくれたおかげなんだろうな)代わりに来たのが、カクテルを作る腕は絶品だがオムレツを作ることにかけては僕と似たり寄ったりという、ほんのヒヨッコのような青二才だ。朝食にトースト以上に実のあるものは望めないとわかっていながら目を覚ますなんて、どんなに悲惨な気分かとても言葉では言い表せない。このままだと僕が酒に走る日も近いぞ。

 帰ってきてくれ。お願いだ。

 ウースター



19--年 7月23日

 ジーヴズ、

 もう手紙を書かないと言ったのが本気だということはわかった。なあジーヴズ、一体何があったんだ? 結婚でもするのか? 誰か亡くなったのか? 僕がお前を怒らせたのか? それともお前、これまで従僕として僕に仕えてきたのはただの世を忍ぶ仮の姿で、実は逃亡中の犯罪王だったのか?
 もしかしたら僕が手伝ってやれるかもしれないぞ、ジーヴズ。これまで何度も僕を窮地から救ってくれたお前のためだ、喜んで力になるとも。だから、どうか何が起きているのか書いてよこしてくれ。

 因みに、あの青二才は上達していない。昨日は僕のマティーニにオリーヴを入れ忘れる始末だ。近頃の若者のたるんでいることといったら、全くけしからんな。

 バーティ



19--年 7月25日

 親愛なるウースター様、

 愚生の不在が引き起こしましたる難儀についてお詫び申し上げますと共に、手助けはできないかとのお申し出に感謝致します。而して愚生が旦那様の許に戻ることは、遺憾ながら状況を更に悪化させることになるだけなのでございます。ですが、決してあなた様のお言葉やご行為によって気分を害したというわけではございません。むしろその正反対でございます。

 敬答

 レジナルド・ジーヴズ



19--年 7月27日

 ジーヴズ、

 僕の質問に答えてないぞ。ごまかすことにかけてはお前の右に出る者はいないな。脱帽するよ。

 僕はお前を怒らせたんではないかもしれないが ー お前の言葉を信じるなら、だ。ひとまず安心したよ ー だが、帰ってくることがお前の状況をいっそう悪くするというのなら、理由はこの僕か、このフラットにあるはずだな(ちょっとよくできた演繹的推論だろ? お前に感化されたに違いないな)。まさかずば抜けて冷静沈着な従僕が一言の断りもなくブライトンに引きこもってしまうような問題がこのフラットにあるとは思えない。となると、原因はこの僕だとしか考えられないじゃないか。

 お前がいなくてどんなに寂しいか、もう一度言おうか?
 帰ってきてくれ。

 バーティ



19--年 7月29日

 親愛なるウースター様、

 どこからお話しすれば良いものでしょう。たゆまぬお気遣い、まことに有り難く存じます。ですが一方で、愚生の振る舞いに対する旦那様のご洞察がかほどまで鋭くなければと惜しまれるものでございます。どうか旦那様、もしも愚生に対して些少なりとも友愛に似た感情を抱かれたことがおありならば、この件に関しては口にすることなく、沈黙を守りたいという愚生の心からの願いを尊重しては頂けないでしょうか。

 遠くに在りてもあなた様の許に。

 敬答

 レジナルド・ジーヴズ



19--年 8月1日

 ジーヴズ、

 お前の最後の手紙を何度も読み返して、僕はちょっとしたジレンマに陥っている。なんとかの角の間にはまりこんでとか、なんかそういうやつだ。僕はお前に友情を抱いていたさ ー こんなこと、普通自分の従僕に向かって言ったりしないものだが、だがそんなことは全部脇へ置いてだな、僕はほんとにお前を親友の一人だと考えている。そして他ならぬその理由によって、僕はペンと紙を放り出してブライトンまで車をすっ飛ばし、お前を抱きかかえてかっさらってこようかと半ば本気で思うんだ。そりゃ、僕には到底手に負えない仕事だろうさ。僕は鉄格子をねじ曲げたりヒグマと取っ組み合いをするタイプじゃないもんな。でもとにかく、魅力的な空想ではある。

 もちろん、お前がウースター氏を何度もくり返しスープの深みからすくい上げてくれたことも考慮の上だ。こんな会計事務の計算法を友情というデリケートな花に適用するなんて胸の悪くなる話だが、言うなればお前への借りにどっぷり浸かっている僕としては、お前に頼み事をするような資格はないのかもしれない。だが、それはそれだ。僕が言いたいのは、僕はそりゃもうもちろんお前を友人だと思ってるし、お前の意思を尊重してやりたい。でも、やっぱりお前に帰ってきてほしいんだ。

 なんと言ったらいいんだろうな、ジーヴズ。お前がいないと、ここは全く違ってるんだ。空の太陽は色褪せ、星々が夜を照らすこともない。ワインが気分を高めてくれることもない。それを言うならどんな酒もだ。昨晩は最高級のシングルモルトスコッチを半分空けたが、これっぽっちも役に立たなかった。

 ドローンズクラブがつまらなくなることがあるなんて思ってもみなかったが、最近はそれすら色褪せて見える。お前が一度もここに来たことがないのは知ってるが、気がつけば僕は全ての物をお前の目を通して見ている。僕にできる範囲で、ということだが。ここはお前には合わないだろうな。僕にはお前が正面のドアを、誰にも真似できない控えめさでもってそっとすり抜けて入ってくるのが目に浮かぶ。片眉をぴくりと上げ、一人きりで静かに一杯飲み、それからそっと出ていくんだろう。誰もお前がそこにいたことに気づかないくらい。まあ、こんな魅力的なイメージを心に作り上げた時、僕はこのクラブが輝きをほとんど失ってしまっていたことに気づいたんだ。夜の終わりにはジーヴズなしの我が家に帰っていくことを知っていては、以前のように楽しむなんて到底無理な話だ。

 要するに、僕はお前の沈黙を尊重するのに全くやぶさかではない。でも、お前に帰ってきてほしいと思う気持ちの方が強いんだ。おい、これでもまだ状況が悪化するなんてことがあるか? 僕がお前を大切に思っても、お前に同じように僕を大切がらせるのは無理なことなんだろうか。

 敬具

 バーティ



19--年8月3日

 親愛なるウースター様、

 あなた様の友情の告白に、愚生は胸を打たれる思いでございます。斯くなる上は愚生の性分にも、また訓練にも反するところではございますが、愚生は自らに課した沈黙を破り、急な出立のわけをお話しせねばなりますまい。あなた様は愚生に率直に、辛抱強く接してくださいました。今までのものよりもまともな説明を受けられてしかるべきでございます。

 手短に申します。愚生はかねてよりあなた様に、従僕としてはもとより、友人としての域をも超えた感情を抱いておりました。昨今に至りまして、その感情は平生以上に頻繁に愚生の心を乱すようになりました。おそらく、あなた様がここ五ヶ月と二週間も、どなたとも婚約しておいででなかったことが原因かと存じます。以前までは、しばらくの間距離を置いて過ごせば充分に気持ちを抑制できておりましたので、今度もこれが功を奏するものと希望を抱いておりましたが、思ったとおりには参りませんでした。まさに「会えねばつのる恋心」と古くより申すとおりでございます。

 これで、愚生が戻るわけに参りませんことがおわかりいただけたことでございましょう。我々のどちらにとっても、良いことではございません。

 あなた様の忍耐に、深く感謝致します。

 敬答

 レジナルド・ジーヴズ



19--年 8月3日 午後5時12分(返信料先払い済)

言イタイコトハソレダケカ コノ馬鹿 今スグ帰ッテコイ オ前ニ会イタイ 気ヅイテヤレナクテ悪カッタ バーティ



19--年 8月3日 午後6時21分

夜ノ便デ戻リマス マタオ会イデキルコトヲ 嬉シク思イマス ジーヴズ



19--年 8月3日

 トンプソン様、

 貴下はこれまで従僕としてめざましい働きをしてこられましたが、当方の個人的な事情により、貴下を解雇せざるを得なくなりました。つきましては、前もってお知らせできなかったお詫びとして四週間分の給金を同封致しますので、どうぞお受け取り下さい。
 貴下の新しい勤め先につきましては、小生の新しい従僕であるジーヴズ氏が喜んでお世話致します。

 敬具

 B.W.ウースター



End.





 訳者あとがき:

 ジーヴズの言葉遣いがとても難しかったです。どこまで丁寧にすればいいのか悩みました。これで敬語の用法間違ってたりしたら‥‥ははは、シャレになりません。
 全編とおして率直で積極的なバーティがとっても彼らしくて可愛い。特に最後の電報は一番好きです。ジーヴズの最後の手紙を読んで猛烈な勢いで郵便局に駆け込むバーティと、それを受け取ってまたいそいそと返信を打つジーヴズの様子が目に浮かぶようです。

 Thank you so much to Katherine F. for permitting me to translate this fic and use it on my site!
 Updated 5 July 2006